続く雨。続く憂鬱。ドラム式洗濯機の中で回る洗濯物。



ぼんやりと、ただ座っていた。回る洗濯物を眺める。ガタンガタンと立てる規則的で大げさな音が心地良い。私の隣には飲みかけのペットボトルが転がっている。雨の音は聞こえないけれど、薄暗くてジメジメした雰囲気は部屋に充満していた。今日も雨。続く憂鬱。気だるくて1日中眠い。現実から逃げたくて目を閉じた。目を開けてみても何も変わらないのに。
会えない日を数えることはもうやめた。自由を愛する彼に嫌われるのが怖くて、束縛なんてできなかった。
遠くに行かないでと言ったら、じゃぁ着いてくればいいと笑うのだろう。着いていけるはずもないのに。千歳はそういう人だ。私は彼のそういうところを好きになった。大らかで自由で、優しくて、その底は触れてみると少しだけ冷たい。
優しく甘く、拒絶されているみたいな錯覚。



「風邪引くで。」



ばさっと頭にパーカーをかけられる。
見上げると呆れた顔をした蔵ノ介が私を見下ろしていた。
を頼むな」と千歳が蔵ノ介に言ったせいか、彼は律儀に私の様子を見に来るようになった。特にこんな雨の日は、憂鬱になる私のお世話をしに来る。私が塞ぎ込まないように外に連れ出して、話し相手になる。蔵ノ介は優しい。
膝を抱えていても何も変わらない。それは分かっているのに。分かることと理解できることはきっと違う。それでも私は待っていることしかできない。


「 蔵ノ介」

「千歳、そろそろ帰ってくるんやろ?元気出しや。」

「 雨、嫌だね」



「え、」

「洗濯物、乾かないよね。」


お気に入りまでは、乾燥機かけられないもんね。彼の言葉を遮ったほとんどひとりごとに近い私の言葉にすら蔵ノ介は小さく息を飲んで「そうやな。」と応えてくれる。
こんな雨の日に、わざわざ電車に乗って、服が濡れるのも気にしないで、膝を抱える私の様子を見に来てくれる。私の待っている人はそんなことしてくれない。比べてはいけないと分かっている。千歳と蔵ノ介は違う。
優しさは時々人を傷つける。私を待たせてくれる千歳は優しい。一緒に待ってくれる蔵ノ介は優しい。だから比べて、いつも私は勝手に振りまわって傷つく。
千歳のこと、嫌いになれればいいのに。蔵ノ介のこと、鬱陶しいと思えればいいのに。
何度そう思ってもできないから、私は雨が上がって、千歳が帰ってくるのを蔵ノ介と待っている。


「飯、作るわ。どうせ何も食べてないんやろ?」

こんなの歪だってわかるのに、一人でいることなんてできなくて。





雨音



20120325