真夜中、散歩をしようと思ったのはなんとなくなのか、彼が毎週収録を終えて大体これくらいの時間に帰ってくることを思い出したのか、どちらかは分からない。冷蔵庫の中の飲み物も残り少なくなってきたから、コンビニにでも行こうと思い家を出る。
夏の余韻もなくなってしまった10月の夜は肌寒くて、そろそろ衣替えをしなければいけないと思いながらゆっくりと歩く。少し前まで仕事が立て込んでいて、夜をゆっくりと過ごすのは久しぶりのことだった。恋人であり仕事のパートナーであるトキヤは仕事が忙しく、同じマンションに住んでいるのに顔を合わせていない。最後に会ったのはいつだろうか。と記憶の断片を辿ってみる。思い出せないことが虚しくなりそうで、その作業はすぐに終わった。





恋人という関係は、どのくらいの期間会っていなくても有効なのだろうか。






ふと、そんな考えが頭をよぎる。
アイドルである彼と、作曲家である私は一般的なデートというものをあまりすることはできず、会うときは家か個室のお店。と決まっていた。
時々外に出ても人目を気にしてなんとなく疲れてしまうのだ。急な仕事が入ることもあるので、まとまった休み以外で遠出することも難しかった。それで満足していないわけではない。でも時々、無性に会いたいと思うときがある。大抵、その願いは叶わない。




隣の部屋に住んでいても、トキヤが私とは遠いところにいるような気がすることだってある。私と彼の世界は繋がっていないんじゃないか。そう思うことがある。信頼していないとか、好きじゃないとかそういうことではなく、キラキラしていて、すぐ遠くに行ってしまいそうで不安なのだ。







?」







不意に、後ろから呼ばれた自分の名前に振り向いた。驚いたような顔をした彼が立っていた。




「 トキヤだ、」




信じられなくて、でも確かめたくて名前を呼んだ。突然会うことに慣れていない私は、おろおろと視線をさまよわせる。私が持っていたコンビニの袋を、自然な動作で彼は取り上げる。嬉しいとか、寂しかったとか、どうしてとか色々な感情が沸き上がる。


会えるなんて思っていなかった。いつもマネージャーさんの車で家まで帰ってくるから。ほんの少しでも期待してしまったら、ひとりの部屋に帰れなくなってしまうような気がしたから。
久しぶりに電話越し以外に聞く声。画面越し以外に見る顔。遠くに行ったと思った彼が、今私の目の前にいて、「こんな夜中に出歩かないでください。危ないですよ。」と怒ったように言っている。



「トキヤ、」

「なんですか。」

「…お仕事、お疲れ様。」



私の言葉に、彼は「ありがとう。」と微笑む。話したいことは沢山あって、でも上手く言葉になってくれはしなさそうだった。「手、繋いでもいい?」と手を伸ばした私の手を、「どうぞ。」と彼の手が繋ぐ。空にはこぼれ落ちそうな月が1つあって、私の右手には彼の意外と温かい手があって、









パステルの星々

(真夜中に君と手を繋ぐ)





20111014 お題はcathy様より